グランドマスター石田

ウォン・カーウァイ監督作品「グランドマスター」を見てきたよ。

1930年代の中国。引退を決意した北の八卦掌の宗師(グランドマスター)・宮宝森(ゴン・バオセン)は、一番弟子の馬三(マーサン)と、南の詠春拳の宗師・葉門(イップ・マン)を後継者の候補と考えていたが、バオセンの奥義を受け継ぐ娘の宮若梅(ゴン・ルオメイ)も自ら名乗りを上げる。しかし、野望に目のくらんだマーサンがバオセンを殺害。ライバルでもあるイップ・マンに惹かれていたルオメイは、その思いを封印して父の復讐を誓い、後継者争いと復讐劇は複雑に絡みあっていく。
http://eiga.com/movie/57641/

天下一武道会なのかと思って見に行ったらまったく違ったというね。雰囲気重視なウォン・カーウァイクンフー映画でどーのこーのは端っからまったく期待してなかったんだけど、クンフー映画じゃないにしても何が撮りたかったのか。全然わからん。

武侠映画としてなら中途半端なワイヤーアクションを使った本当に中途半端なクンフーがまったくもってかっこ悪い。リアリティ出したいならワイヤー使わなくていいのに、しかもあのスローモーション()。なんだあれ。別に作中にバトルシーンがまったくなくてもいいんだよ、ウォン・カーウァイなんだから。クンフーとかバトルとかウォン・カーウァイがやんなくても、そっちはアン・リージョン・ウーで充分間に合ってるから。

伝記映画にしても肝腎のところがぼっこり抜けてる。字幕では西暦だったけど作中モノローグでは終始民国○年という暦を使ってて、1950年代も民国○年なんて言って香港に住んでるならイップ先生は国民党支持なんだよねえ。なら一番の激動期である民国→共和国になったあたりのいろいろは?接収されてから用心棒になるまでの間は絶対なにかあるはずなのに。家族も嫁と下の子はの消息はわかったけど上の子は?で、最後に出てきた少年があの人ってこと?

群像劇にしたいならまったく尺が足りない。イップ先生の人生いろいろ、ルオメイとマーサンの確執、カミソリの暗躍、それらの人物がクンフーで関わり、離れ、戦中戦後のあれこれを乗り越えて共和国成立後の香港に集まることとなり…、みたいな話になると、どう考えても2時間じゃ無理だろ。かなりの長編をぶち切った編集で公開したらしいし、公開した作品も国内版と海外版で内容が違うらしいし、エピソードを分けて各話独立させつつも全部見たらイップ先生一代記としてきれいに繋がる三部作なんかにしてくれたほうが誰にとっても幸せだったのではないかと…。

トニー・レオンは何を考えてるのかわからない落ち着きと風格で拳の達人っぽさを出してた。チャン・ツィイーは負け知らずの高慢さと鼻っ柱の強さだけのまなざしから、復讐に燃える冴えきったまなざし、爛れて崩れたまなざしまで演じて、さすがにきれいに撮ってもらってた。張震は出番がいちいちすごく印象的なんだけど、ストーリーにまったく関係がない!ビタイチない!ていうか白バラ理容室はなんなんだよ!店員さんたち怖すぎてヤバイ!スウィーニー・トッドと双璧のおそろしさ!ていうか記念撮影もまったく関係ない!

というわけで自分にとってはまったくテンションのあがらない作品として記憶された「グランドマスター」なんだけど、同じ日に別のクンフー映画が公開されてたんだよね〜、のどごし生のCM!グランドマスターはこっちにいた!

今回はサラリーマンの「カンフースターになりたい」という夢を叶えてて、ジャッキー・チェンの映画を見て育った人間なら、ごっつええ感じのコント「兄貴」で松っちゃん兄貴と舎弟今田が中小企業のハマダ社長の事務所に行って、今田が「プロジェクトA」の替え歌を歌いだした途端死にそうになって爆笑した人たちなら、絶対に「あるある!」と即わかるカンフー映画のお約束を微に入り細にわたってぎっしり詰め込んだ作品になってる。感動したね。すごくカンフー映画です。

原案・脚本・主演をつとめ、競演に友人のアクション俳優としょこたんを誘い、ジャッキーと競演と演技指導までしてもらって。しかも吹替のジャッキーの声がちゃんと石丸博也だし。

やっぱり自分あたりには、芸術性が高い(らしい)作品より、見てついクンフーの型を真似したくなる、こういう作品のほうが楽しめる。

とりあえずテーマ曲の「いーしーだ!」という歌が頭から離れないからあえて呼び捨てなんだけど、サンキュー石田、まじサンキューな!本当に石田の濃密で濃厚な夢のおかげでものすごくすっきりしたよ。
グランドマスター石田に、いい夢と映画を見せて貰いました。