「ブラックスワン」

バレエ映画に見せかけてるけどサイコホラー映画?だよねえ。途中すごく痛そうなシーンでは、ヒィッ!とかギャーーーー!とか声でそうだったし。

ニナ視点で話は進むけれど、「ニナには見えているが、実際には起こっていない出来事」がたくさん登場してくるわけで、当初は見間違えか錯覚だろw程度が、舞台初日目前にしても役柄をつかめず精神的に追い込まれていくニナは徐々に妄想と現実の区別がつかなくなっていく。

たとえばバレエ団に移籍してきた若手ダンサーのリリーの背中には黒い羽のように見えるタトゥーがあるのだけれど、どんなビッチだったとしても背中にタトゥーいれてるクラシックダンサーはいねえだろって話で、あれたぶんニナにしか見えてないと思うんだよね。上昇志向が強く蠱惑的で開放的な魅力を持つリリーに対して本能的にブラックスワンに通じるイメージと役を獲られるかも畏れを感じ「ブラックスワンの化身のようなダンサー」というレッテルを貼ったのかなあと。

そしてリリーを、ニナにはできないこと=ブラックスワンの演技や性的なことを軽々とやれる存在としてうけとめる。リリーはビッチ風味な描写がいろいろ出てきたけど、ニナは見た、ってだけなんだよね。ニナにはそう見えた。でも実際のリリーは薬キメたりのやんちゃな部分はあるけど、前日に羽目外しても練習にはきちんと参加してたりとマジメだし、励ましたり謝ったりと他人への気遣いができる点では、他人のことなんか眼中にないようなコミュ障ニナより格段につきあいやすい子なんだよね。

ミッツマングローブみたいな顔してるニナ母。若い頃はダンサー、でもコールドどまり、自分のかなえられなかったプリマという夢を娘によってかなえようとする母親…と思ってたら違うじゃないッスか。娘をコントロールし真綿でくるんでやんわりスポイル、そして自分を越えることを許さない。ニナを「あなたは誰よりも努力してるんだもの!」と励ますんだけど、芸術とスポーツはビタイチ努力してなくても才能ある人は輝けるもの。努力の量を評価基準にしてる時点でアーティストが側に置くべき人じゃないよなあ。

結局ニナは努力では打開できない部分で行き詰まり追い詰められていくけれど、最終的には見事ブラックスワンを踊りきってカーテンコールを浴び、それまでずっと困った八の字眉顔ばかりだったニナの表情が一転、非常に穏やかな顔で鏡に向かい最終幕の白鳥メイクをし、終幕の舞台の上で彼女は満足いく結果を得ることになる。

でもゴールの見えない道を進み続け、頂上の見えない山を登り続ける超一流アーティストは、何度舞台に立っても自分の演技に満足することなく常に課題を見つけ、よりすばらしいパフォーマンスのために自分を磨き続けていくと思うので、これで満足しちゃったニナは、やっぱりアーティストしては一流じゃなかったのかなあと。

苦しみを乗り越え、彼女を縛るいろんなものから解き放たれ、満足してるんだから、ハッピーエンドだと思うけどね。