複合型メンヘラ同僚

たぶん以前に部分的には紹介したことがあるけど。

【登場人物】

  • 私子:無関係部署から飛び込んできたぺーぺー
  • 残子:スタイル抜群のはっと目を引く美人契約社員
  • 局子:面倒見と人柄のよさがにじみ出てくるベテラン
  • 課長:人あたりのいいおっさん

組織の統廃合があった年のこと。新年度から新設された部署に、私子と局子と課長という新規配属3人組と、旧部署から残留した残子との4人で働くことになった。初めてのことばかりで戸惑った私子だが、いつもニコニコ人あたりのいい課長と、ベテランで業務を知り尽くしているうえ細かい気配りがすばらしい局子がいろいろと気遣ってくれたこともありなんとかやっていけそう。残子とは業務上の接点も会話も少なかったのだが、組織変更のタイミングで切られた契約社員も多いなか残留したくらいなので才色兼備の優秀な人なんだろうと思っていた。私子は単独業務だったが、残子と局子は連携する業務が多かったこともあり、このふたりは早い時期から親しくなっていった。

GWも終わった頃、私子は局子から呼び止められた。残子がいろいろと相談してくるけれどちょっと驚くような内容で、もしかして私子もそんな話をされているんじゃないかと思った、なにか相談とかされてる?と訊かれた。残子とは雑談をするくらいにはなっていたが、過呼吸で倒れた・救急車で運ばれた・貧血がひどい、と病気自慢がウザかったので、距離感を大切にしたいアンタッチャブル物件という認識。なので、持病があることは聞いてますが相談を受けるほど親しくないし正直苦手なタイプですと答えた。

しかし局子は大変だった。配属翌日にふたりで出席したミーティング後の雑談中に「局子さん、3Pの経験ありますか…?私はあります…」と切り出され、以降はなにかとプライベートな問題を相談されているが、正直重いと。ていうか3P?…ちょっとそれおかしいですよね?でしょ?初対面同然の職場の同僚に話すことじゃないよね?となり、とりあえず残子はいろんな面で不安定な人という認識を持つこと、局子が相手をする、私子は他部署から人となり情報を入手してくる、メンタル面はお互いが気をつけて様子をみようということになった。

夏になった頃、大きなイベントがあり部署全員が掛かりきりで多忙に動き回った。しかしイベントまわりの作業において、残子が優秀どころかなり仕事ができない事実に他の3人が気付いた。なんで契約延長できたんだろうというレベルだった。

各所への聞き込みでわかったのは、仕事をサクサクこなせないが見た目よく愛想もよいから上司ウケもよく、男性にベタベタするのでまた可愛がられる。しかしうっとおしいところがあり、手は挙げないが「ぜひお願いします」と頼まれたい、謙遜するが「そんなことないよ」と否定されたい、周囲が気遣い持ち上げてないと体調が悪くなるような、かまって貰いたいタイプ。イベント準備でもそんなふうだったなあと納得。しかし部署内では最年少なので、若いから仕方ないと苦笑半分で許されるところもあるし、業務で接点の少ない私子にとっては許容できる範囲ではあった。
ただ局子は、余裕があるときならいいが切羽詰まってくると相手をするのはちょっと厳しい、話を聞いてやって、いくらアドバイスしても受け入れないから無駄だし、あんな話をずっと聞いてると私のほうが病気になりそうだけどねと苦笑していたので、つらくなる前に課長や私子に言ってくださいと頼んでいた。

秋になった頃、局子が本当に体調を崩して短期入院した。退院後は「もう残子とは距離をおくから」ときっぱり宣言、以降は相談を聞き流すようになった。そして、これまではプライベートなことだからいっさい口外していなかったけど、ひとりで抱えるのは耐えられないので悪いけど聞いてほしいと言って、残子から受けた相談内容やこれまで聞いた話を全部私子にぶちまけた。

  • 契約延長できたのは前部署責任者のチカラ
  • ていうか前部署責任者とデキていたから
  • 3Pの相手は前部署責任者とその友人
  • 実は職場に出入りしてる業者Aさんともできている
  • ふだんあんなキザったらしくスカしている業者Aさんは赤ちゃんプレイをする
  • そのうえ業者Bさんともできている
  • Bさんってaround60歳とかのじじいだぞ!
  • たまに顔出す業者Cさんは元彼
  • そういう各相手と週一ペースで仕事帰りにラブホ→帰宅
  • なので残子の家族には残業が多い忙しい職場勤務だと思われているらしい
  • ちなみに各相手は週一ですが残子は週3〜4ペースです
  • 「ラブホのスタンプカードがすぐ貯まるからブランドバッグ貰っちゃった☆彡」
  • 申し遅れましたが残子は夫も家庭もある一児の母です

ちょっとこれはマジで頭がおかしいレベル。取引先を中心にセフレ多数、そのセフレの性癖・体位・回数・大きさ・ピロートークの内容など性的なこともすべて局子に垂れ流し、こんな内容を聞かされていたら病気になって当たり前という生々しさ。そういえば業者Aさんとは囁くような小声で長電話してたなあとかアイコンタクトしてたなあと、言われてみれば私子にも思い当たるところがあった。
「仕事中でもこんな真面目な顔で話してるけど『この業者さんはアレの時は道具使ってるんだ…』『アレが小さいんだ…』といろんなことが思い浮かんで胃が痛くてたまらなかった」「よく今まで黙って聞いてやってましたね!」「だって私子が聞かないから円満な職場生活のためには仕方ないじゃない!」「サーセンww」ということで、以降私子は頻繁に局子のストレス解消飲みに付き合わされるようになった。残子は下戸かつ車通勤で絶対飲みには参加しないため、この時期の局子にとって愚痴をはける飲み屋は聖地になった。

局子に相談相手をしてもらえなくなった残子は他部署の女子をタゲろうとしたが、以前私子が聞き込みをしたことも影響したのか、誰からもやんわりお断りされていた。

冬に入った頃、残子は左手首に幅広で派手な柄のリストバンドをして出勤してきた。私子が「わー、きれいな柄のリストバンドだねーおしゃれー」「そう?ありがとう」という会話をしたが、「バカ、あれリストカットの跡を隠してるのよ!」と後から局子に怒られた。前夜ザクっと切る→包帯の上からリストバンドを巻いて出勤→職場から病院に診察予約→昼休みに縫合、ということだったが、局子も私子も「大変だねえ、気をつけて」程度で終わらせていたら、病院に予約を入れるのに職場デスクの電話を使うようになってオープン化、課長にもリストカットの事実が伝わり、局子と私子は事情を訊かれた。なので、配属当初からの流れを男女関係部分まで包み隠さず説明すると、この内容はちょっと飲みながらじゃないと聞けないねということになって、もともと飲み好きな3人はこれまで以上に頻繁に飲みにいくようになった。

年度末が近づいた頃、残子は週に複数回リストカットするようになってきた。どうやら次年度の雇用契約更新時期になり、色仕掛けは通用しないし勤務評価も高くないし、契約延長できるかどうか心配でナーバスになっているようだった。課長に次年度契約はどうするのか訊ねたところ、とにかく不安定な子なので契約を切った後になにかあると大変だから延長しようかと思っている、いろいろあっても業務時間外のプライベートなことだし、局子さんも私子さんもオトナだからそれなりの距離感でつきあえるよね?ということでがっくりきたが、まあ仕方ないと思っていた。残子は頻繁にリストカットしては昼休みに病院に行って縫合する日々を繰り返し、リストバンドの柄も「気づいてよ!」と言わんばかりにどんどん派手になっていったが、何を見たり聞いたりしても流そう、職場に出入りする相手の男たちのことも電話の内容もスルーね!と局子と私子は突っ込みを放棄していたため、仕事面ではそれなりに回っており、とくに問題はなかったからだ。

ところが、恒例のリストカット縫合通院の送迎を別の取引先業者さんにさせていることが判明した。勤務時間外ならプライベートだが勤務時間内のことになると目をつぶるわけにもいかず、課長に報告したところおっさん大激怒、とうとう次年度以降の契約はしないと残子に通告した。そしたら出勤してこなくなり、残子夫から事情を問う電話が掛かってきた。

以降、残子に関する一連の処理については課長が全部引き受け、局子と私子には詳細抜きの経過報告のみという形になったので詳しいことはわからないままなのだが、最終的に残子は有給休暇を消化しつつ年度末で退職することになった。課長は職場まで押しかけて来た残子夫と就業時間内外にわたって長時間面談を何度も行い、最後には納得してもらえたようだが、そこに辿り着くまで半月ほど掛かった。

人あたりのいいにこやかなおっさん然の課長だが、実はこのあたりで一番DQNな地区出身の元糞DQNなので根性は座っており、課長のみの対応になったのは、怒鳴り込んで来んばかりの残子夫から部下を庇ってのこと、また包み隠さず事情を話すとなると残子の男性関係のことも表面化してくるため、残子夫の面子なども考えての対応だったらしい。ちなみに課長は誘われなかったのかと飲んだ勢いで訊ねたところ、どうやらなきにしもあらず、でもちょうど外国人パブのおねえちゃんに入れ込んでいた頃だったからね〜という返事だった。

年度末、残子は引き継ぎのために何度か出勤した後、契約満了による退職ということで去っていったのだが、新年度になり彼女の仕事を引き継いでみると、合計するだけでしょという簡単な計算式で終わるはずなのになぜか計算結果が合わないという謎Excelファイルがわんさか出てきて、局子も私子も帳尻を合わせるのに非常に苦労した。

しばらく経って、それぞれが知っている情報を持ち寄り、まとめてみた。いったいどこでどうおかしくなったんだろうと考えた。

残子は、お嬢さま高からエスカレーターで短大へ進み、就職して1年目で結婚退職、出産後ここに契約社員として再就職、学生時代はまったく目立たないもっさりした太めの眼鏡っ子だったのに、この職場で再会したときは人目を惹く外見服装になっていて元同級生が驚いたという遅咲きデビュー。「外見要因のコンプレックスが解消されて、いろいろはじけたんじゃないのかな」と元同級生談。

残子夫は、農家長男で農協勤務、10歳近く年下の新卒1年目の残子と結婚するにあたり一戸建てを新築し敷地内別居していたが、長女出産後に残子と残子夫家族との関係が悪化、残子は実家近くにアパートを借りて長女を連れて出奔別居、その後は一戸建てのローンを返済しつつ、残子アパートに夜だけ立ち寄る毎日だった。

残子長女は、朝起きるとすぐに残子実家の祖父母宅に預けられ、残子が迎えに行く21時すぎまで過ごし、食事風呂宿題などはすべて祖父母宅ですませ、両親と顔を合わせるのは一日1時間もない生活を送っていた。話を聞いてくれる大人、自分の相手をしてくれる大人に寄っていく人懐っこくかわいい子でママ大好きな子だったが、つまりは親に構われていないのが如実に表れた、不安定さがある子だった。

今になって考えると、義実家・膿家・長男教・エネ・基地ママ・プリン・放置子、そのあたりがぎっしり詰まった出来事だったと思う。